どのようにしてヒトゲノム解析を行うのか?


ヒトゲノムプロジェクトには以下の3つの段階がある。

1:遺伝的地図をつくる
2:物理的地図をつくる
3:狭い範囲に焦点をあて、配列を決定

1995年までの仕事はおおざっぱな遺伝子の全体像を知ろうとする、1と2が中心である。1と2をまとめてゲノムマッピングと呼ぶがこのマッピングについてまず説明しよう。

わたしたちがある個人を特定するとき、名前、住所、電話番号、FAX番号、E-mailアドレスなどを利用している。それと同じように遺伝子にとっても名前と住所はとても大事なものである。
たとえば、ある遺伝子がアルコール中毒の発症に強くかかわっていて、この遺伝子を発見した研究者が「アルコール中毒の遺伝子」という名前をつけたとする。では、遺伝子の住所はどうやって決めるのか?すなわち、どのようにして遺伝子が何番目の染色体のどこの部分にあるかを指定するのか?これを決めることを遺伝子マップの作成という。

 

では、遺伝子マップの作成の仕方(これを遺伝子マッピングという)を紹介しよう。
ヒトには全部で23対(46本)の染色体があり、長いものから短いものへと順に番号がついている。もっとも長いのは第1番染色体、もっとも短いのは第23番染色体。そして、23対の染色体すべてには10万個の遺伝子が乗っている。
ある特定の遺伝子が何番目の染色体にあるのか?これは染色体の大きさから容易にわかる。次に、その染色体のどこの位置にあるかを指定したい。これには、まず、染色体をいくつかの区域に分けねばならない。染色体をキナクリンという色素で染めると濃く染まる部分と淡く染まる部分が現れる。これを光学顕微鏡で眺めると遺伝子の束がバンド状になって見える。これで遺伝子をいくつかの区分に分けることができる。

体細胞(ふつうの細胞のこと)が分裂する際に1本の染色体が複製されて、2本になるが、これらは互いに交差している。その交差点のことを動原体(キアズマ)という。動原体を原点にして考えると、染色体には上下に2本の腕があるともいえる。上の腕は短いので短腕、下の腕は長いので長腕と呼んでいる。
染色体という地図上では短腕をp、長腕をqであらわす。長腕と短腕にはいくつかの領域があり、その領域にはいくつかのバンドがある。このようにして染色体は「染色体の番号」、「腕」、「領域」、「バンド」というように小さな区分に分けられる。ちょうと白地図を小さく区切って市町村の地図を描くのに似ている。

 

バンドの図

実際に特定の遺伝子を表す場合には遺伝子マップでは例えば「5q14のバンド」と表現する。この意味を調べることで遺伝子マッピングの練習をしてみよう。この遺伝子は第5番染色体にある。第5番染色体の短腕(p)にひとつの領域があって、その中に3つのバンドがある。一方、長腕(q)には3つの領域があり、それぞれの領域に二つから四つのバンドがある。
従って、「5q14のバンド」の意味するところは染色体は第5番目、腕は長腕、領域は第1番目、バンドは4番目ということをさしている。この表記法によって遺伝子の染色体におけるおおまかない地を指定することができる。
1980年代に人には約10万個の遺伝子があると数人の著名な生物学者が推測をしていたが、1989年にはじまったヒトゲノムプロジェクトが進むにつれ、この10万という数字が正しいことが分かってきた。研究者の推測が当たったわけで、実業家からもかなりの信用を獲得した。人のもつ約10万個の遺伝子すべてを2005年までにマッピングすることが目標として設定され、その作業は急ピッチで進んでいる。


この遺伝子地図には次の2種類がある。
1の遺伝子地図というのは、どの染色体の、どの位置にどのような遺伝子があるのかを示したもののことをさす。たとえば、髪の毛や目や皮膚の色、耳垢の特徴などを決めている遺伝子が何番の染色体のどの位置にあるのかが大まかにわかる。

2の物理的地図というのは、染色体を制限酵素で切断して得られるいくつかのDNA断片に、遺伝子A,B,C,に対応するプローブをハイブリダイズさせる。この操作から、遺伝子A,B,Cが染色体のどの位置にあるのかを遺伝子地図よりもはるかに詳しく知ることができる。

プローブ:(=Probe何かを探るために使う針):1本鎖DNAに対して相補的なDNAのこと。例えば1本鎖DNAのある1部分がCGATGCATの配列だとすると、プローブの配列がGCTACGTAならばプローブとDNAが二本鎖をつくる。

ハイブリダイゼーション(ハイブリダイズ):もともとはパートナーでない一本鎖のDNA同士が塩基対をつくって、二本鎖になること。

シークエンス

地図ができあがると、今度はDNAを小さな断片に切断して配列を解析していくことになる。しかし、ヒトゲノムは大変に大きな量なので、何段階かに切断し、それぞれの断片を増幅して解析していく。100万文字くらいの大きなDNA断片に使われるベクター(DNAを入れておく入れ物みたいなもの)としてはYACベクターが使われる。また、より小さな断片では、コスミド、プラスミドなどのベクターが使用される。最後に数100文字くらいの小さなDNA断片になって初めて完全なDNAの文字配列が解読されることになる。これらの解析にはゲル電気流動や、PCRなどの技術が多用されるが、大量配列解析のための装置は今では大方が自動化されている。(この自動的に解析する装置のことを自動シークエンサーと呼ぶ)


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