代理署名訴訟 最高裁判決

 平成8年8月28日、最高裁判所大法廷は沖縄県知事から上告のあった 駐留軍用地の強制使用に係る代理署名職務執行命令裁判請求事件について、 以下のような判決を下しました。

1 最高裁判所判決

 ○主 文  
本件上告を棄却する。  
上告費用は上告人の負担とする。

 ○判決理由骨子
  1. 署名等代行事務は、国の機関委任事務に該当し、その主務大臣は内閣総理大臣である。
  2. 職務執行命令訴訟においては、主務大臣が発した職務執行命令がその適法要件を充足しているか否かを客観的に審理判断すべきものである。  
  3. 駐留軍用地特措法は、憲法前文、9条、13条、29条3項に違反しない。
  4. 沖縄県において駐留軍用地特措法を適用することが憲法前文、9条、13条、14条、29条3項、92条に違反するということはできず、95条違反の主張はその前提を欠く。  
  5. 使用認定にこれを当然に無効とするような瑕疵があるか否かについては、本件訴訟において審理判断を要するものと解するのが相当であるが、本件各土地の使用認定について瑕疵があるとは認められない。
  6. 上告人に対する署名等の代行の申請及び本件調書の作成に違法の点はない。
  7. 上告人の署名等代行事務の執行の懈怠を放置することにより、著しく公益が害されることが明らかである。

2 訴訟の争点

代理署名訴訟の争点表

 高裁判決 
上告人(県)の
主張
最高裁判決
(上告棄却・全員一致)
審査権の
範囲
 国が先行行為として行う使用認定について知事に審査権が与えられているとは言えず、使用認定の違法、無効、違憲を理由として代理署名を拒否することは許されない。  砂川判決の本旨に従って、職務執行命令の前提である首相による強制使用認定が、駐留軍用地特措法の要件を満たし適法かどうかを裁判所は審査しなければならない。  職務執行命令訴訟に置いては、下命者である主務大臣の判断の優越性を前提に都道府県知事が職務執行命令に拘束されるか否かを判断すべきものと解することは相当でなく、主務大臣が発した命令がその適法要件を充足しているか否かを客観的に審理判断すべきものと解するのが相当である。
署名拒否は公益の侵害か  我が国は米軍に対し施設・区域を提供する義務がある。知事の拒否によって国は土地の使用権原取得の可能性を奪われ土地収用法が保護・実現しようとする公益を著しく害することは明らか。  基地の実態から、知事の署名拒否が沖縄の公益。代理署名することの公益と知事が拒否によってもたらそうとした公益を比較して、地方自治法の本旨を踏まえて判断すべき。  上告人の署名等代行事務の執行の懈怠を放置することより、著しく公益が害されることは明らかである。署名等代行事務の執行をしないことを通じて駐留軍の基地が集中していることによる様々な問題の解決を図ろうとすることは、知事等の署名等の代行の制度を認めた趣旨の予定するところとは解しがたい。
代理署名は国の機関委任事務か  代理署名は補充的事務で、地方自治法別表に掲げられている事務と性質は異ならず別表の「等」に含まれる。地理的関係など行政事務上の便宜から知事に委任して義務づけたもの。  代理署名は土地・物件調書を完成させるために要求される事務で、公的第三者の立場から起業者を監督する観点から行われる「独立した事務」であり、国の指揮監督が及ばない自治事務である。  土地収用法の定める手続構造からすれば、公益事業の円滑な遂行と私有財産の保障との調整を図ることを目的として、起業者が行う事業の遂行を規制することは、起業者に土地等の収用又は使用の権限を付与した国の責務であり、国の事務にあたり都道府県知事に機関委任されている。
 このことは特措法による署名等代行事務についても同じ。
駐留軍用地特措法は違憲か  駐留軍用地特措法は、憲法に違反しない。平和的生存権は、憲法上具体的権利とは言えず裁判規範性を持たない。  安保条約が合憲だとしても駐留軍用地特措法はただちに合憲ではない。米軍基地の存在は県民の人権を侵害しており、駐留軍用地特措法の適用・運用は違法である。
 ・平和的生存権の侵害(憲法前文、9条及び13条違反)
 ・憲法29条 財産権の保障違反
 ・憲法14条 法の下の平等違反
 駐留軍用地特措法は、憲法前文、9条、13条、29条3項に違反しない。
 国が条約上に基づく国家としての義務を履行するために必要かつ合理的な行為を行うことが憲法前文、9条、13条に違反しているというのであれば当該条約自体の違憲をいうに等しいが安保条約は合憲であることを前提として特措法の憲法適合性についての審査をすべきである。


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